明日世界が終わるとしても,私はリンゴの木を植える。
もう二人の時間ではない。
外に出れば,社会が待っていた。
今日は太陽の眩しさがやけに沁みる。
「ねぇ,いつからこうなると思ってた?」
「この道を歩いてきたときかな。」
もうあの頃の二人ではない。
この道を後戻りなんて出来ない。
する時間もないんだ。
9月某日
ナンパ再スタートの月と設定した9月。
目標は10get。彼女もいれば,仕事もある。他の条件もそんなに良くはない。決して簡単なハードルではない。だが,越えられないハードルではない。
越えるためには,この9月最初の出撃で結果を残したい。結果的にも,メンタル的にもスタートダッシュが肝心だった。
行きたいのはいつもの箱。
この箱には彼しかいない。
そう思って二階堂くんに合流打診。
彼はただのイケメンなだけでなく,真剣にアドバイスもくれる良い男。女の子の好みも広義的に合う。相方にはバッチリだ。
当日,自分の仕事の関係で,24時頃合流からの箱イン。二階堂くんはアームくんとJさんも連れて来てくれていた。
まずは二階堂くんと乾杯。
そこからは場に自分を馴染ませる。
馴染ませると同時にサージング。
馴染ませる。
サージング。
馴染ませる。
サージング。
馴染ませる。
近くを見る。
...あれ? 二階堂くんがいない。
と思ったら,Jさんとコンビで和んでる。しかも,結構いい感じに。
仕方ない。
もう箱には馴染んでいるし,サージングも済んでいる。
とりあえずは,グルグルしよう。
と思っていたら,ソロ案件が僕の近くを通ろうとする。
すぐに気付いた。
この案件のことは知っていた。他の男と絡んでいて,その男には食い付きがなかったことも。男を放流したのか? 僕ならいける。そう確信した。
そこからは早かった。
案件の手を引っ張り,認識させる。
オープン。
和む。
「ウソじゃないよ。おれの目を見てごらん? この目でウソを言ってるように見える?」
案件が目を合わす。数秒見つめ合う。案件から目を逸らす。僕に興味はあるが,素直になれない反応だ。
再度,和む。
「もっと話したいからさ,静かなとこ行かん? 二階行こう」
二階連れ出し。
再度,和む。
コールドリーディング。
これがハマる。
そこに共感してあげる。
食い付きはある。上がっている。
あとは食い付きを下げないように。
自分なりの押し引きで。
一歩進めば二歩下がるくらい。
僕にはそのくらいがちょうどいい。
言葉だけでなく,身体も使って。
「おれが一番やと思うならキスしてごらん?」
案件からキス。
案件が見つめてくる。
何を言って欲しいのかも分かっている。
「こんなとこで口説くのもなんやし,二人きりのとこで口説きたい。さあ,行こう。」
友達グダはほとんど相手にしなかった。崩す必要はなかった。手を引っ張り,二人で箱を後にした。素直だった。
ホテルまでは会話を絶やさないように。
箱内でしきれなかった自己開示を少し。出来る限りは案件にしゃべってもらうように。
そうしているうちに,ホテル街に。
この道は何回来ただろうか。
でも,今日は違う。いつもとは違う達成感があった。ちょっぴり大人になったような気分だった。...もういい大人だけど。
行為後は普通の日常会話。
疲れていたけれど,眠たかったけれど,限界までは眠らずに抱きしめてあげて,ちゃんとしゃべってあげること。二人の時間を作ってあげることが自分なりの感謝のしるし。
仕事のこと。
学校のこと。
趣味のこと。
好きなこと。
恋愛のこと。
ある程度,話が盛り上がったところで限界がきた。案件も眠そうだ。一緒に寝よう。
数時間後,起床した僕たちは手早く準備を済ませて,ホテルをあとにした。
もう二人の時間ではない。
外に出れば,社会が待っていた。
今日は太陽の眩しさがやけに沁みる。
「ねぇ,いつからこうなると思ってた?」
「この道を歩いてきたときかな。」
もうあの頃の二人ではない。
この道を後戻りなんて出来ない。
する時間もないんだ。
成長し続けなければいけない。
ナンパが何をもたらしてくれるのか。そんなことはどうだっていい。
そこまで入れ込む必要はないにしても,やるならちゃんとやる。明日世界が終わるとしても,ナンパ師ならナンパをするだろう。
だからこそいま。
改めて,ナンパの再スタート。
明日世界が終わるとしても,僕はリンゴの木を植えようと思う。
○明日世界が終わるとしても,私はリンゴの木を植える。---マルティン・ルター